私たち司法書士は、代書屋と呼ばれていたこともありました。今では街の法律家と言われることもありますが、今でも、お客様から依頼を受けて協議書や議事録などの書類を作成することは大事な仕事のうちの一つです。
つまり、私たちが頭で考えて紙面に表現したことが商品となるわけです。ところが、この業界に入って間もないころ、誤字脱字が多い書類や訂正印だらけの書類を見る機会が多々あり、違和感を感じることがありました。特に、何千万円のローンを組み、一生に一度の高い買い物をしたお客様に、訂正印だらけの権利証をお渡ししていることを見たときに、お客様にとって大事な所有権の証であるはずなのになあ・・・と思うこともありました。いわゆる欠陥商品ですね。
(現在は法務局のシステムで発行される登記識別情報通知となっているため、私たちが権利証のもとになる書類を作成することはありません)
ですから、そのような書類をお客様にお渡しすることがないように、書類を作成する際には、最低2回違った視点でチェックすることを心がけております。まずは、その書類の形式面だけを確認します。形式面で問題ないことを確認してから、書類の内容面を確認するようにしています。ちなみに、確認する際は必ず声に出して読み上げるようにしております。目視だけですと、文字を先読みして間違えに気づかず飛ばしてしまうことがあるからです。特に自分の作成した書類は「間違えがないだろう・・」という先入観が入ってしまい、目だけの確認ではミスをスルーしてしまうので、声を出しての確認は重要です。
形式面でミスがあった時は、高確率で内容面にもミスがあることが多いです。なので、スタッフが作成した書類を確認する場合は、形式面でのミスを一つでも見つけると、その場でスタッフに書類を返してダメだしします。というのも、誰でもすぐに気がつく形式面でのミスをスルーしているということは、内容面まで、しっかり確認していないからです。
例えば、会社の議事録を作成する際に、第1号議案の次が第2号議案でなく第3号議案になっていたり、作成日が去年になっていたり、改行位置がずれていたりした場合に、これらに気づくことなくスルーするようでは失格です。
形式面のミスは、お客様でも気がつきますし、心を入れて仕事をしていないとお客様から思われても仕方がありません。
体裁もしっかり考えられ、誤字脱字もなく、ピシッ!とした書類は、紙を通じてお客様に対しての気持ちがあらわれているような気がします。今までの経験上、体裁をしっかりして作り込まれている書類は、得てして内容面についても、しっかりと論点が整理されて作り込まれていますし、受け手を意識した書類が多いです。
とはいっても、人間ですから忙しいときや同時並行に案件を受託しているときはミスが起こりがちです。そのようなときは、「手抜きは自分に跳ね返ってくる!」とか、「手抜きはお客様への裏切り行為」ということをスタッフに伝え、自分自身も意識し、お互いに「忙しいという言い訳を正当化しない」ように気をつけております。
忙しいときだからこそ、確認をする。そのよう癖をつけなければ、ミスの対応に追われ、結果的にお客様からの信頼を失い、貴重な時間もロスすることになります。また、時間をロスすることで、さらに焦ってしまったり、視野が狭くなって大事なポイントを見落としたり、判断力が鈍ってしまうなど、仕事のパフォーマンスも下がっていく悪循環に陥ってしまいます。
私たちが作成した書類はお客様にとっての大事な商品である・・という当たり前のことを、当たり前に意識していきたいと思います。