昨日は、判断能力に問題がある相続人がいた場合に、相続財産がマイナスのケースを取り上げました。今日は、相続財産がプラスのケースについてお伝えしたいと思います。
昨日の例のように、お父様がお亡くなりになって、お母様、長男、長女3名が相続人の場合、お父様の相続財産について、3名で遺産分割協議を行う必要があります。(遺言がない場合)
お母様が認知症で、判断能力を喪失されている場合は、相続手続きをすすめることができないため、別途成年後見の手続きを行う必要があります。家庭裁判所で後見人が選任された場合は、その後見人がお母様を代理して遺産分割の協議を行います。
その際、昨日同様、長男が後見人として選任されている場合は、相続人としての立場と後見人としての立場を兼ねてしまっているため、利益相反に該当し、別途、特別代理人の選任が必要となります。特別代理人の選任をしなくてもいいように、成年後見人を長男でなく、司法書士や弁護士などの第三者に就任してもらう方法もあります。
ただ、親族が後見人にならない場合は、第三者に後見業務に関する報酬を支払う必要があります。報酬の額については家庭裁判所が後見人からの報酬付与の申し立てに基づいて決定することとなりますが、相続手続きが完了しても、後見人としての任務が終わるわけでなく、原則的にはお母様がお亡くなりになられるまで第三者による後見業務が続きますので、報酬をずっと負担することとなります。よって、特別代理人の選任を避けるためだけに安易に第三者を後見人にしないようにしましょう。
なお、後見人が、遺産分割協議にお母様の代わりに参加する場合、原則としては、お母様が法定相続分を確保できるように協議を行う必要があります。家庭裁判所からも同様の指導が入ることがあります。
全員が判断能力に問題ない場合は、相続人間で遺産分割協議を行う場合、法定相続分でなく、全員で合意した内容で相続財産を配分することができます。もし、お母様が生前に相続財産は要らないと言っていたとか、意識がしっかりしていたらこうしてたであろう・・といった場合でも、お母様が法定相続分を確保しない遺産分割協議を後見人が行った場合、後に善管注意義務違反に問われる場合もありますし、損害賠償を請求されることもありえるため注意が必要です。
なお、お父様が生前に遺言をされていた場合は、その内容にしたがってお母様の代わりに後見人が手続きを行うことになります。公正証書に基づく遺言であれば問題ありませんが、自筆証書の遺言の場合は、家庭裁判所で検認の手続きが必要となります。
一方、遺言の内容を確認した結果、お母様が一切相続する内容になっておらず、遺留分を侵害していると思われる場合は、後見人は遺留分を侵害している他の相続人に遺留分減殺請求権を行使して、遺留分を確保する必要がありますので、その点にもご注意ください。
相続人の中に判断能力を喪失されている方がいらっしゃる場合、相続手続きだけでなく今後の財産管理や将来起こりうることも想定してトータルで問題を解決する必要がありますので、そのようなことでお困りの際は当事務所までご相談ください。