ご両親がお亡くなりになられ際に、相続財産がご自宅だけだったというケースの場合、財産の分配はどのようにしたらいいでしょうか?
ご両親がお亡くなりになられる前、長期間にわたり入院されていたり、自宅での生活が困難となったために施設へ入所された場合などは、預貯金がそれらに使用されていることがあり、相続が発生した時点では預貯金がほとんど無かったということが考えられます。
今後、人生100年時代と言われ、長生きをする方が多くなってくると、健康であったとしても、預貯金を取り崩しながらの生活の結果、やはり相続財産は自宅のみだったという方も増えてくるのではないかと思います。
たとえば、ご両親がお亡くなりになられて、長男と次男が相続人だったとします。長男も次男もその自宅に住んでいない場合は、2分の1づつ「共有」で相続することが考えられます。
しかしながら、一度共有状態になると、将来的に不動産を処分する際、長男と次男の意見が一致しないと不動産を売却することが出来なくなります。売るタイミングや売却価格で二人の意見が一致しなかった場合、最悪は塩漬けの状態となってしまい、空き家となってしまうリスクがあります。
次に、「換価分割」という方法を取ることが考えられます。長男も次男も自宅に住んでいないわけなので、そのまま放置しておくと空き家となってしまうため、相続のタイミングで自宅を売却し、その売却代金の2分の1づつ分配するという方法を取ると、共有状態のリスクや空き家となるリスクを回避することができます。
一方で、長男がご両親と自宅にずっと同居しており、ご両親が亡くなられた後もその自宅に住むことを希望されている場合はどうでしょうか?
ご両親の身の回りのお世話をずっと長男が行っていて、次男が相続権を主張せずに、長男が自宅を相続することを承認してくれれば、長男の単独名義となります。
しかしながら、民法上では、長男と次男の相続割合は平等ですから、次男が相続権を主張しても法的には全く問題がありませんし、実際、そのように主張されるケースも珍しくはありません。
とはいえ、相続財産は自宅しかありませんし、長男が実際に住んでいるわけですので、2分の1づつ共有にするということも現実的ではありません。
そのような場合は、「代償金」を支払うことで、お互いが納得する解決を図る方法があります。
つまり、自宅を長男が相続する代わりに、次男の相続分に見合う金額を長男から次男に支払うことで、自宅が長男の単独所有となるわけです。
もちろん、資金がない場合は代償金を活用した解決は出来ないのですが、金融機関では、このような代償金を支払うための住宅ローンを取り扱っているところがあるので、手元に資金がない場合はそのようなローンを利用することも考えられます。
長男の立場からすると、「なんで、今まで住んでいた家なのに、次男にお金を支払わなければならないのか・・」と心情的に納得できない気持ちもよくわかりますが、民法では相続人は平等の権利となっているため、相続権を主張される次男も法外な請求ではないわけです。
このようなお互いの立場を理解したうえで、話をすすめていかないと、長男・次男とも自分の立場のみで物事を考え、相手の主張を非難しあうことになってしまうと話し合いでの解決が困難となってしまいます。
そのような場合、長男には「次男の方に代償金を支払ったと思わずに、自宅を住宅ローンで購入して、繰り上げ返済したと思えばどうですか?」とお伝えすることもあります。
自分が自宅を相続して当たり前という考えよりも、次男にも相続権はあるという前提で物事を考えて交渉した方が、結果として揉めずに穏便に解決することにつながることが多いと思います。
相続では、相手の「感情」をいかにくみ取ってあげるかが、トラブル回避の鉄則ですね。